会社を設立するとき、株式会社としたり合同会社としたり、機関を設置したり、事業内容を考えたり、自由に組織を設計することができます。そして手続の負担はかかるものの、いったん設立した会社においても組織を作り直すことは可能です。
この「組織再編」には目的に応じた様々な種類があり、それぞれに異なるメリットや注意点を持っています。当記事で、これら組織再編の基本について解説をしていきます。
まずは「合併」についてです。
合併とは、複数の会社が契約に基づいて1つの会社に合同することをいい、さらに「吸収合併」と「新設合併」の2種類に分類されます。
合併の種類 | |
---|---|
吸収合併 | 合併により消滅する会社の権利義務のすべてを、合併後も存続する会社に承継させる合併のこと。 |
新設合併 | 合併により消滅する会社の権利義務のすべてを、設立する会社に承継させる合併のこと。 |
合併に関しては、どの種類の会社でも実行することができます。株式会社や合同会社、合名会社や合資会社も、存続会社・消滅会社・新設会社になることが可能です。
《合併の基本的な手続》※株式会社のする合併
① 合併契約の締結
② 事前の開示(株主や会社債権者が合併に対する判断を下すための資料を提供する)
③ 株主総会による承認
④ 反対株主の株式買取請求権(合併に反対する株主が、株式を買い取ることを請求する権利)
⑤ 債権者保護手続
⑥ 事後の開示(承継した権利義務その他合併についての事項を記載した書面または電磁的記録を作成する)
⑦ 合併についての登記
合併のメリットは次の点にあるといえます。
● 管理費用が削減できる
● 販売力や技術開発力、資金調達力などが強化できる
● 市場の占拠率を広げられる
しかし上記の通り株主や債権者保護を図る様々な手続を進めなければならず、組織再編にかかる手間もコストも大きいです。新設合併だとさらにコストがかかってきますし、事業の許認可などを新たに取得する必要もあります。
《合併と事業譲渡の違い》
同じM&Aの枠組みに入る合併と事業譲渡ですが、これらは異なる手続であり、効果も異なります。
合併 | 事業譲渡 | |
---|---|---|
内容 | 2つ以上の会社が契約に基づいて1社に合体すること | 事業を他社に譲渡すること (一定の事業に使う財産を譲渡し、当該財産に基づく事業的活動を引き継がせて、譲渡会社は当然に競業避止義務を負うこと) |
株主 | 株主は承継される ※合併対価が株式ではなく金銭である場合、吸収合併における消滅会社の株主は承継されない。 |
株主は承継されない |
株主保護の仕組み | 反対株主による株式買取請求権 株主の差止請求 |
反対株主による株式買取請求権 |
債権者保護の仕組み | 異議申立ての機会がある | ― |
清算手続 | 消滅会社の清算手続は不要 | 事業のすべてが譲渡されても当然には解散せず、解散をするなら清算手続も必要 |
「会社分割」とは、株式会社または合同会社において、事業についての権利義務を分割し、それを承継会社または新設会社に承継させることをいいます。「吸収分割」と「新設分割」の2種類にさらに分類できます。
会社分割の種類 | |
---|---|
吸収分割 | 株式会社や合同会社の権利義務を分割し、それをすでに存在している他の会社に引き継がせること。 |
新設分割 | 複数の株式会社や合同会社が権利義務を分割し、それを新たに設立する会社に引き継がせること。 |
上述の通り、「分割会社」になれるのは①株式会社、②合同会社の2種類に限られています。
というのも合名会社や合資会社には無限責任社員が存在しており、これら社員の存在は、会社に連帯保証人がいるのと同様の状態を作り出しています。会社債権者からしても債権回収がしやすいという利点があります。しかし合名会社や合資会社が分割会社になれてしまうと、会社債権者に不利益をもたらすおそれがあるのです。権利関係の複雑化ももたらすこととなりますので、これらの会社は分割会社になることが法的に認められていません。
なお、「承継会社」や「新設会社」に関してはどの会社でもなることができます。合名会社や合資会社が他社の権利義務を引き継いでも会社債権者に不利益がないためです。
《会社分割の基本的な手続》※株式会社のする会社分割
① 吸収分割契約の締結(または新設分割計画の作成)
② 事前の開示
③ 株主総会による承認
④ 反対株主の株式買取請求権
⑤ 債権者保護手続(業績の悪化した会社が分割会社となり、採算の取れる事業のみ、もしくは採算の取れない事業のみにかかる権利義務を承継させてしまうと、会社債権者が不利益を被ることになる。そこで債権者を保護するための仕組みがいくつか設けられている。)
⑥ 事後の開示
⑦ 分割についての登記
会社分割のメリットは次の点にあるといえます。
● 事業の包括的な承継ができ、事業譲渡に比べると手続の負担が少なく済みやすい
● 株式を対価にでき、資金調達の不安が小さい
● 不採算事業を切り離すことができる
しかし一方で、包括的な権利義務の承継にはリスクが潜んでいる可能性もあります。事前にしっかり調査しておかなければ良くない点もまるまる引き継いでしまうことになってしまいます。また、債権者に異議申立ての機会を与えなければならないなど、特に規模の大きな会社だと事業譲渡より手続の負担が大きくなるおそれもあります。
「株式交換」とは、発行済株式の全部を、他の株式会社または合同会社に取得させることをいいます。
ポイントは、「既存の会社間でする行為」であり、かつ「完全親子会社関係を作り出す行為」である点です。
また、当時会社となれるのは株式会社と合同会社に限定されている点には注意が必要です。当然ながら、株式交換によって完全子会社になれるのは株式を発行する株式会社のみです。
そして完全親会社になれるのも株式会社と合同会社のみです。
※合名会社および合資会社は完全親会社になれない。
《株式交換の基本的な手続》※株式会社が完全親会社になるときの株式交換
① 株式交換契約の締結
② 事前の開示
③ 株主総会による承認
④ 反対株主の株式買取請求権
⑤ 事後の開示
⑥ 登記
このように、株式交換においては他の組織再編で求められていた「債権者保護手続」が原則として必要ありません。完全親会社になる会社にも、完全子会社になる会社にも行う必要がありません。
これは、合併や会社分割のように債務が他社に移転しないことがその理由です。また、通常は対価として交付されるのは完全親会社の株式であり、財産の流出も起こらず会社債権者に不利益が起こりにくいのも理由の1つです。
株式交換のメリットは次の点にあるといえます。
● 完全子会社を作れる
● 現金の負担なく買収ができる
● 少数株主を排除できる
株式譲渡にはない利点もありますが、手続が煩雑であるという難点も持っています。また、株主構成が変化することや、子会社側に現金が入らないこと、部分的な買収による子会社化ができないなどの難点もあります。
「株式移転」とは、発行済株式の全部を、新設する株式会社に取得させることをいいます。完全子会社になれるのは当然株式会社であり、2社以上の株式会社が完全子会社になることもできます。
株式移転におけるポイントは、「新たな会社を立ち上げる行為」であり、かつ「新設会社を完全親会社にする行為」である点です。株式交換では新設会社の存在がありません。既存の会社同士による組織再編行為でしたが、株式移転では新たな会社が誕生します。
《株式移転の基本的な手続》
① 株式移転計画の作成
② 事前の開示
③ 株主総会による承認
④ 反対株主の株式買取請求権
⑤ 株式交換の効力発生
⑥ 事後の開示
⑦ 登記
株式移転のメリットは次の点にあるといえます。
● 持株会社を設立してグループ企業をまとめて管理する体制が作れる
● 買い手は新株を発行すればいいため新たな資金調達が不要
● 少数株主を排除して子会社化できる
● 売り手も別法人として存続できる
ただし、管理コストが増大して利益が減少してしまうおそれもあります。その結果、株価が下落する可能性もあります。
「株式交付」とは、株式会社が、他の株式会社を子会社とするために株式を譲り受け、譲渡人に対して自社の株式を対価として交付することをいいます。
株式交付は令和元年の会社法改正により新たに作られた組織再編手続です。自社株式を対価として交付し他社を子会社にするなら、上述の「株式交換」を利用する方法がありますが、その場合は完全親子会社関係になってしまいます。
単に子会社を作りたいときには利用ができず、他の手段により子会社化を図るにもコストがかかったり手間がかかったり、多くの問題点があったのです。
そこで自社株式の交付を行う親子会社関係を作り出すための仕組みが創設されました。
なお、株式交付では「子会社となる会社の株主」から任意で株式を譲り受けることとなりますので、子会社そのものが当事会社になるわけではありません。
《株式交付の基本的な手続》
① 株式交付計画の作成
② 事前の開示
③ 株主総会による承認
④ 反対株主の株式買取請求権
⑤ 事後の開示
株式交付においても「債権者保護手続」は原則不要です。ただし、親会社の株式以外の金銭を対価として交付するのであれば必要となります。
株式交換のメリットは次の点にあるといえます。
● 株式交換のように完全子会社化する必要がない
● 子会社側の経営の独立性を保つことができる
● 対価は自社株であり資金調達の負担が小さい
しかし子会社化できるのは株式会社に限られていますし、日本で設立された会社に限られています。また、すでに議決権の過半数を持っている子会社を対象に株式交付を行うことはできません。新設された制度ですのでルールはよく確認しておく必要があるでしょう。
《株式交付と株式交換の違い》
株式交換 | 株式交付 | |
---|---|---|
当事会社 | 株式会社または合同会社 | 株式会社のみ ※子会社は当時会社とならず、子会社の株主が当事者になる。 |
効果 | 完全親子会社関係を作る | 親子会社関係を作る |
対価 | 完全親会社の株式、または金銭のみの交付も可能 | 親会社の株式は交付が必須。 株式と併せて金銭を交付することは可能。 |
最後に、ここまでで紹介してきた組織再編の種類を整理します。
組織再編の種類 | |
---|---|
吸収合併 | 1つの会社へ合同するとき、消滅する会社の権利義務のすべてを、合併後も存続する会社に承継させること。 |
新設合併 | 1つの会社へ合同するとき、消滅する会社の権利義務のすべてを、設立する会社に承継させること。 |
吸収分割 | 株式会社や合同会社の権利義務を分割し、それをすでに存在している他の会社に引き継がせること。 |
新設分割 | 複数の株式会社や合同会社が権利義務を分割し、それを新たに設立する会社に引き継がせること。 |
株式交換 | 発行済株式の全部を、他の株式会社または合同会社に取得させること。 既存の会社間で、完全親子会社関係を作る。 |
株式移転 | 発行済株式の全部を、新設する株式会社に取得させること。 新たな会社を立ち上げて、完全親子会社関係を作る。 |
株式交付 | 株式会社が、他の株式会社を子会社とするために株式を譲り受け、譲渡人に対して自社の株式を対価として交付すること。 完全親子会社関係ではなく、子会社を作る。 |
なお、組織再編にあたるものの上記の手続と毛色が違うものに「組織変更」があります。組織変更は、次のいずれかの行為をいいます。
1. 株式会社が、合名会社・合資会社・合同会社のいずれかになる
2. 合名会社・合資会社・合同会社のいずれかが、株式会社になる
事業を他社に譲渡したり、親子会社関係を作ったり、会社の消滅や新設をしたりするものではありません。会社の種類を変更することを組織変更と呼びます。
※合名会社・合資会社・合同会社の間で変更する場合は組織変更ではない。