自筆証書遺言は、公証役場を利用せず自分だけで作成できる遺言の方式です。
手軽に作成できる一方、法律で定められた形式を満たしていないと無効になるおそれがあります。
この記事では、自筆証書遺言が無効とされる原因と、有効に作成するために気をつけたいポイントを解説します。
民法968条は、自筆証書遺言が有効であるための形式を定めています。
求められる要件は次の4つです。
これらのうち1つでも欠けていると、遺言書全体が無効になる可能性があります。
以下では、それぞれの要件について注意すべき点を確認していきます。
自筆証書遺言は、遺言者が自分の手で全文を書かなければなりません。
パソコンで作成した文書や、他人に代筆してもらった文書は、自筆証書遺言としては認められません。
ただし、財産目録については自書でなくてもよいとされています。
パソコンで作成した一覧表や、不動産の登記事項証明書のコピーを添付することも認められています。
この場合、財産目録の各ページに遺言者の署名と押印が必要です。
本文と財産目録で扱いが異なるため、どの部分を自書しなければならないのかを正しく理解しておくことが大切です。
遺言書に記載する日付は、年月日を特定できる形で記載する必要があります。
令和7年4月5日のように具体的に書けば問題ありません。
無効となりやすいのは、日付が特定できない記載です。
最高裁昭和54年5月31日判決では、「昭和四拾壱年七月吉日」と記載された遺言について、暦上の特定の日を表示するものとはいえないとして、無効と判断されました。
「吉日」のほか、月だけで日を書いていない場合も同様に無効となるおそれがあります。
また、遺言書を数日にわたって書いた場合は、完成した日の日付を記載するのが一般的です。
なお、日付を西暦で書いても和暦で書いても有効性に違いはありません。
どちらの形式でも、年月日が特定できれば問題ないとされています。
遺言者の氏名は戸籍上の実名で自書するのが原則です。
通称やペンネームであっても、本人を特定できる場合には有効と認められた例がありますが、争いを避けるためには戸籍どおりの記載が望ましいです。
押印については、実印である必要はなく、認印でも有効とされています。
ただし、押印そのものがない場合は無効となります。
押し忘れを防ぐために、書き終えた後に確認する習慣をつけておくと安心です。
なお、指印については、最高裁平成元年2月16日判決で有効と認められています。
ただし、実務上は認印以上の印鑑を使用する方が安全です。
自筆証書遺言は形式を満たしていても、内容にあいまいな点があると相続人間で争いに発展するおそれがあります。
また、財産の特定が不十分な場合には、登記を行うときに別途資料を準備したり、遺産分割協議を進めなければならなかったりと、相続手続を行ううえで支障をきたす場合があります。
不動産であれば所在・地番・家屋番号、預貯金であれば金融機関名・支店名・口座番号まで記載すると、手続きがスムーズに進みます。
また、遺言書を書き直す場合は、以前の遺言書との関係を明らかにしておくことも重要です。
以前の遺言をすべて撤回するという一文を入れておくと、どちらが有効か争いになるリスクを減らせます。
さらに、相続人や受遺者、つまり遺言で財産を受け取る人が遺言の内容の誤認を防ぐよう、丁寧な字で読みやすく書いておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。
高齢になってから書く場合は、筆跡が乱れて判読が難しくなることがあります。
判読できない部分がある遺言書は、その部分の効力が争われる原因になりかねません。
せっかく有効な遺言書を作成しても、相続人に発見されなければ意味がありません。
自宅に保管する場合は、信頼できる人に保管場所を伝えておく方法があります。
また、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用する方法もあります。
この制度では、法務局が遺言書を預かり、形式面の確認も行います。
家庭裁判所での、遺言の存在と内容を確認する検認の手続きも不要になるため、相続人の負担を軽減できます。
自筆証書遺言は手軽に作成できる反面、形式の不備によって無効となるリスクがあります。
全文の自書、日付、氏名、押印の4つの要件を確実に満たすことが基本です。
加えて、財産の特定や保管方法にも配慮しておくと、相続手続きの際に問題が起きにくくなります。
ご自身で作成した遺言書に不安がある場合や、より確実な方法を検討したい場合は、相続に詳しい司法書士に相談して内容を確認することをおすすめします。